もし私が大学院に進学しなければ,進学するメリットを知る機会はなかっただろう.
大学院に進学すべきか就職すべきか学部3年生や4年生によく聞かれることがある.この記事では改めて卒業まで残り4ヶ月となった修士2年の一人の大学院生が,修士2年間の経験から学んだこと,得られたことを紹介する.
課題を分析するスキル
修士の2年間を通して向上したスキルの1つは課題を分析するスキルである.例えば「ほしいジュースが買えない」という問題があるとする.このときジュースを買うためにはなぜ買えなかった原因を特定し,その原因を解決する必要がある.もちろんジュースを買うことを我慢するという選択肢もあるが,期間限定のジュースがある場合は必ず買うことにする.代表的なジュースが買えない理由には,所持金の不足や店舗での在庫の不足がある.
では,ジュースを買うにはどうすればよいだろうか.まずジュースが買えない理由を,消費者自身の原因,販売者(店舗)の原因,製造者の原因に分類してみる.すると,ジュースが買えない理由によって対処が異なることがわかる.例えば,消費者の所持金がなければ知人からお金を借りればよい.また,販売者(店舗)に在庫がない場合,別の販売者(店舗)で購入すればよい.
このように修士過程の2年間を通して,原因を解析し何が根本的な原因であるかを整理するスキルが向上した.さらに,その問題をどのように解決すればよいかを提案をするスキルも向上した.これは修士課程へ進学する前には分からなかった進学により向上したスキルである.
精神的な強さ
修士課程の2年間を通して身についたもう一つのスキルは,精神的な強さである.これまでの小学校から大学の学部4年までは,インプットを中心とした学習であり明確なゴール(目標)が定められている.一方で修士課程で主に取り組む研究活動は,明確なゴール(目標)が定められていない.また,ゴールに達するまでの課程が示されているわけではない.そのため,ゴールに達するために試行錯誤を繰り返す必要がある.こうした試行錯誤の課程は,精神的に負担がかかりやすい.たとえ,好きで取り組んでいても辛く感じるときがある.実際にNatureで紹介された論文の調査によると,博士課程の学生は一般的な高学歴の人に比べて約2.5倍の精神障害を発症するリスクが高いことがわかっている[1].
ここまでの内容を踏まえると,大学院への進学は精神的な負担があり心配になったかもしれない.しかし,精神的な負担は必ずしも悪いものではない.スタンフォードのストレスを力に変える教科書(ケリー・マクゴニガル 著,神崎 朗子 訳,大和書房,2015)では,ストレスが体に良いと思うことでストレスは,精神的な強さを生むことが紹介されている [2].またGoogleの調査では,これまでの人生での苦労を乗り越えた経験がある人ほど,入社後にパフォーマンスを出していることがわかっている[3].このように精神的な負担は必ずしも悪いものではない.
修士課程を通して精神的な負担を乗り越えた経験は,その後の人生の精神的な強さにつながる.苦難を乗り越えた経験は,自信につながり自分を新たな挑戦へ後押しする.進学を決意した学部4年生のころは精神的な強さを獲得できるとは思っていなかった.このスキルは進学したからこそ分かった修士課程の価値の1つだと思う.
おわりに
この記事で述べた2つのスキルは,修士課程だけにとどまらず社会でも必要なスキルである.この記事を通して大学院の修士課程へ進学するメリットを共有し,修士学生が東京工科大学に増えることを願うばかりである.
参考文献
- 好き過ぎてつらい博士課程 | Nature ダイジェスト | Nature Portfolio (accessed 2022-11-29)
- Amazon.co.jp: スタンフォードのストレスを力に変える教科書 スタンフォード シリーズ eBook : ケリー・マクゴニガル, 神崎朗子: 本
- コミュ力もリーダーシップもいらない。元Google社員が語る、本当に「優秀な人材」とは | ハフポスト 特集 (accessed 2022-11-29)