『ビジョナリー・カンパニー』から学ぶ経営学

アメリカの有名なビジネスコンサルタントとしてジェームズ・C・コリンズという人物がいます。

スタンフォード大学で数理科学の学士号と経営学修士号を取得し、アメリカの大手コンサルティング会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニー社でコンサルタントを務め、次いでヒューレット・パッカード社のプロダクトマネージャーを務めた人物です。

彼が著した『ビジョナリー・カンパニー』は、1994年に出版されてから、世界中の経営者に読まれてきました。
この本には、「時代を超えて輝き続ける「偉大な企業」は、そうでない企業と何が違うのか」を解き明かすためのカギとして重要なことが詰まっています。

12の崩れた神話

『ビジョナリー・カンパニー』で私が興味深く感じる話が、「12の崩れた神話」の一つ『ビジョナリー・カンパニーは、万人にとってすばらしい職場である。』という話です。
コリンズはビジョナリー・カンパニーは”カルト”のような強い文化を有しているといいます。

その企業の基本理念と高い要求に「ピッタリと合う」人にとっては、最高の職場である一方、「水が合わない」人にとっては、居場所はありません。

ここに「中間はない」とコリンズは強調しています。
ビジョナリー・カンパニーは決して、万人にとって「やさしい」「居心地のよい」職場ではない、という話です。

偉大な企業のリーダーとは

今回は、『ビジョナリー・カンパニー』から、「偉大な企業のリーダー」について要点をお話しします。
(厳密には2001年に出版された『ビジョナリー・カンパニー2』に関わる話となります。)

キーワードは「GoodはGreatの敵である」です。

“野心”あふれるCEOが登場することで、”ありふれた”企業が飛躍することができたとします。
そのCEOが退任した後、この躍進企業の行く末は二手に分けれます。

1. 偉大な企業に向かって飛躍を続ける道
2. 一代限りでどこにでもある企業に後戻りしてしまう道

後戻りしてしまう企業のCEOは、個人としての”野心”が強いことで「群れの中の自分が一番大きな犬でなければ我慢できない」タイプのリーダーであるといいます。
このタイプのリーダーが去った企業は往々にして衰退していきます。

一方で、偉大な企業に導いていくCEOは、”野心”が偉大な企業のCEOと同じくらい強いものの、その目標は個人的な成功ではなく会社の成功に向いています。
偉大な企業を作るためならどんな困難も乗り越える不屈の精神を兼ね備えています。

コリンズは、こうした資質を持ったリーダーを五つの水準の最高位にあるといい「第5水準のリーダシップ」として示しました。

下表 リーダーシップの5つの段階(コリンズの『ビジョナリー・カンパニー』訳より)

第1水準 有能な個人 才能、知識、スキル、勤勉さによって、生産的な仕事をする
第2水準 組織に寄与する個人 組織目標の達成のために自分の脳直を発揮し、組織の中で他の人たちとうまく協力する
第3水準 有能な管理者 人と資源を組織化し、決められた目標を効率的に効果的に追求する
第4水準 有能な経営者 明確で説得力のあるビジョンへの支持と、ビジョンの実現に向けた努力を生み出し、これまでより高い水準の業績を達成するよう組織に刺激を与える
第5水準 第5水準の経営者 個人としての謙虚さと職業人としての意志の強さという矛盾した性格の組み合わせによって、偉大さを維持できる企業を作り上げる

また、第5水準のリーダーの最大の特徴として「個人としての謙虚さ」と「職業人としての意思の強さ」という「二面性」を兼ね備えていることを指摘しています。

下表 第5水準のリーダの「二面性」(コリンズの『ビジョナリー・カンパニー』訳より)

職業人としての意志の強さ
(Professional Will)
個人としての謙虚さ
(Personal humility)
素晴らしい実績を生み出し、偉大な企業への飛躍をもたらす 驚くほど謙虚で、世間の称賛を避け、決して自慢しない
どれほど困難があっても、長期にわたって最高の実績を生み出すために必要なことは全て行う堅い意志を示す 静かな決意を秘めて行動する。魅力的なカリスマ性によってではなく、主として高い基準によって組織を活気づかせる
偉大さが永続する企業の築くための基準を設定し、基準を満たさなければ決して満足しない 野心は自分個人ではなく、企業に向ける。次の世代に一層の成功を収めれるように後継者を選ぶ
結果が悪かった時に、窓の外ではなく鏡を見て、責任は自分にあると考える。他人や外部要因、運の悪さのためだとは考えない 鏡ではなく窓を見て、他の人たち、外部要因、幸運が成功をもたらした要因だと考える

ローマは一日にして成らず

このことわざのように、時代を超えて輝き続ける偉大な企業になるための決定打や奇跡の瞬間はありません。
一歩ずつ、粘り強く、責任を持って仕事を成し遂げていくための「規律」が必要であるといいます。

「よい規律」と「ダメな規律」

ダメなタイプの規律

1. 官僚的な規則や管理による規律 → 起業家精神を失わせる
2. 強権的な経営者の下でもたらされる規律 → その経営者が去った後に”たが”が緩む

よいタイプの規律

わざわざ規律を定めなくても、従業員が自律的に行動する「規律の文化」とも呼べるもの

コリンズは「起業家精神」と「規律の文化」を備えた組織を「偉大な組織」と定義しています。

「規律の文化」を作るには

コリンズは、規律の文化を作るには、まず基本理念に沿って自ら行動できる従業員を育成することが重要だといいます。
仕事の基本的なシステムやプロセスを確立し、それを順守した事業運営をする必要があります。
しっかりした仕事や事業の”枠”があるからこそ、その中で個々の従業員は自由と責任を両立することができます。

事業戦略にも規律が必要で、コリンズは「経営者が最も避けなければならないのは根拠のない楽観主義である」と指摘しています。
1. 自社が世界一になれる
2. 経済的原動力になる
3. 情熱を持って取り組める
この3つの要件を満たした事業に取り組まなければならないと主張します。

どんなに利益を上げていても、3つの要件を1つでも満たさない事業は捨てる規律が必要といいます。
「偉大な企業は、機会が不足して飢えるのではなく、多すぎる事業機会に消化不良になって苦しむ」からだとコリンズは説明しています。

ハリネズミの概念

最後に、コリンズの「ハリネズミの概念」を紹介します。
コリンズは、「世の中にはハリネズミ型の人とキツネ型の人がいる」といいます。
キツネは賢く、機敏で、毎日新たな作戦を考えては、ハリネズミを仕留めようと襲いかかります。
ハリネズミは、「『何度失敗しても懲りない奴だなあ』と、身体を丸め、鋭い針を全方向に突き立てて、防衛する」特徴があるとしています。

偉大な企業に飛躍した企業はハリネズミ、飛躍できない企業はキツネに似ているといいます。

「ハリネズミは単純でさえない動物だが、たった一つ、肝心要の部分を知っており、その点から離れない。キツネは賢く、さまざまなことを知っているが、一貫性がない」

これが「ハリネズミの概念」です。

ハリネズミの概念については、自分の仕事について次の観点から考えてみるとわかりやすいといいます。自分がキツネなのか、ハリネズミなのか、考えてみるのも面白いです。

1. 持って生まれた能力にぴったりの仕事であり、その能力を生かして、恐らくは世界でも有数の力を発揮できるようになる(自分はこの仕事をするために生まれていたものだと思える)。
2. その仕事で十分な報酬が得られる(これをやってこんなにお金が入ってくるなんて、夢のようだと思える)。
3. 自分の仕事に情熱を持っており、仕事が好きでたまらず、仕事をやっていること自体が楽しい(毎朝、目が覚めて仕事に出かけるのが楽しく、自分の仕事に誇りを持っている)。

参考にした文献

表や訳文は、以下の文献より引用しています。
[1] 斎藤修一, マネジメントの名著を読む, (日経文庫1328 2015年1月15日)
[2] 斎藤修一, 仕事に役立つ経営学, (日経文庫1314 2014年8月8日)

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